2019/05/19

南大洋航海記〜その2〜

〜その2 白鳳丸航海後半〜
モーリシャスから南下,EEZを抜けるとまた観測が始まります.南大洋を特徴づけるのは緯度方向の海水温変化です.南緯45~60度に南極周極流という強い海流があります.北半球のように遮る大陸が存在しないため,地球を一周する唯一の海流です.周極流は低緯度の熱が高緯度に運ばれるのを妨げ,その南北で大きな水温差を生み出します.

つまり周極流を通過すると海水温は一気に低下します.これはもちろん海洋に棲息するプランクトンに大きな影響を与えます.周極流の過去から現在に至る変動を調べることは,海洋の生物量や南極域の熱量を考える上で非常に大切です.しかし,その周極流を研究するには困難が伴います.風と流れが強いため船体が安定せず,観測を行うことが難しいのです.海況が安定するわずかなタイミングを狙って,観測を行うことになります.

今回は採泥,ドレッジ,そして反射法探査が行われました.それぞれ海底の堆積物,海底の岩石,そして海底下の地形を調べることが目的です.堆積物や岩石から過去の地球環境や地形の成り立ちを調べることができます.特に堆積物に含まれるプランクトンの化石は,私の主な研究対象です.

海底下の地形について,例えば月の地形は衛星観測から詳細に分かっていますが,地球の海底についてはほとんど調べられていません.堆積物から地形まで,海底の基礎的な情報が揃って初めて,IODPなどのさらなる海底掘削が可能になります.私が今まで経験してきたIODPの前段階を知ることとなり,たいへん勉強になりました.

周極流を通過するまで船体は大きく揺れますが,さらに南を目指します.海水温や気温は下がっていき,マイナスにさえなります.蛇口からの海水も冷たく,緯度の大きな変化を実感します.

ここで鉛直方向に海水を採取するCTD観測が行われました.市販されている深層水は,深さ200 mくらいの海水が用いられているのが普通です.一方,今回の海水採取は真の深層水,数1000 m級の深度から採取します.その海水の温度や酸素の量など性質を詳細に調べます.南極周辺では冷たくて塩分の高い海水が沈み込んでいますが,その様子を追跡できる可能性もあります.

もう1つは海氷の採取です.海水が冷えてできる海氷は,周囲の塩分や生態系にも影響を与えています.今回は海氷が少なく採取は危ぶまれたのですが,なんとか漂う氷を回収することができました.初めて目にする海氷には感動しました.

さて,いよいよ航海も終盤です.南大洋から北へオーストラリアを目指します.とはいえ暇になることはなく,これまで採取した試料やデータの解析,報告書の作成を進めます.堆積物を半分に割って,肉眼で記載を行います(写真).約10 mの堆積物を並べると,目の前に過去数10万年間の記録があり壮観です.

ついにオーストラリアへ到着し,乗船研究者で航海の成功を祝います.採取できた試料を用いた今後の研究が期待されます.周囲の研究者が帰国の準備を進めるなか,私は次の航海へ準備を始めます.つかの間の陸上を満喫し,フランス船マリオン・デュフレーヌに向かいます.
その1へもどる〉〈その3へつづく〉

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