2016/10/23

50ページ読書

初めはみかん箱に入れていた本.一つ本棚を買って,安心していたらも一つ二つ.入りきらない本が棚の上に積まれている.「積ん読」は,およそ読書について回る.

昨年まで,読書ペースは月に数冊.たまに古本屋で10冊買えば,積みはどんどん増えていく.怖々棚を眺めれば,数年前に購入して未読の本,途中で挫折した本が並ぶ.趣味とするほどには,読書習慣はなかった.

きっかけは,図書館で借りた講演CD.藤本義一の「言葉と文字」を聴いた.-----20代で作家を目指した彼は,一日に原稿用紙10枚を書き,50ページ本を読むことにした.毎日少なくとも一時間を,自身のために使うことに決めた.

1日1時間も,1年で365時間になる.24時間で割れば,およそ15日にもなる.そうして彼は偶然,医学の本で"人間はどれだけ徹夜できるか"を知る.どんな人間も「15日」徹夜すると,死ぬか狂うかするらしい.

徹夜の連続はできないが,1日1時間ならできる.ゆっくり狂うことができる.自身の習慣を続ければ,きっとプロになれると,彼は自信をつけた.-----私は作家を目指すわけではないけれど,妙に説得力のある習慣を,どうも身につけたくなった.

1日50ページが,私には約1時間.始めてすぐ,試練が訪れる.飲み会からの帰り,ちょうどよく酔って,そのまま寝てしまいたくなる.ギリギリ「ここで寝たら三日坊主!」と思い留まり,寝床で50ページ読んだ.

一度習慣になれば,50ページはさほど苦にならなくなる.旅先で手持ちの本を通読したときは,書店で購入して読むこともあった.「狂う」までの目標,50ページを360回,予想よりも早く到達することができた.

ゆっくり"15日間徹夜した"効用は様々感じられる.まず,自分が敵わない人物を知ること.例えば井上ひさし,蔵書は約20万冊.部屋の床が目の前で抜けるとは,一体どんな光景で,感覚なのだろうか.

次に,読んだ本のネットワークができること.今読んでいる本が他とどういう関係にあるか,ある程度つかまえられる.そして,自分にとって読む意義があるかを見極められること.今のところ理解できずとも,意義のある本は確かにある.

メリットに比べて,おかしいのは「積ん読」が減っていないこと.読書ペースが上がっているのに,むしろ増えてないかと疑うくらい.藤本義一は35年かけて4000冊を読んだらしい.本棚が,想像できない...