2016/09/23

地下鉄ぐらし

仙台に2つ目の地下鉄が開通して,はや9か月.生活をがらりと変える選択肢に対して,沿線に引越し通学する人も珍しくない.私の利用は月数回に止まるが,以前のバスに比べ,天候に影響されない便利さを実感している.

西端の八木山駅は日本一標高の高い地下鉄駅として知られるが,隣の青葉山駅はホームの深さが特徴的である.地上とホームの高低差は100m以上あり,エレベータを除けば5回ほどエスカレータ/階段を利用しなければならない.

利用者の多くはエスカレータに乗って,階段を使う人はまばらである.しかし私は運動のひとつと思って,なるべく階段を利用する.少なくとも学生のうちは,むやみに楽するのは控えておこうという考えも手伝っている.

そう考えるきっかけは,高校の部活,遠征中にあった.席が十分に空いている電車内,私を含め学生は並んで席に座った.すると引率の先生に,「お前ら年でもないのに座るな」と注意された.ひと回り上の先生が立っていては,学生は従うよりほかない.

エスカレータや歩く歩道を見て思い出すのは,ドラえもんの映画「のびたとブリキの迷宮」.機械文明に依存した人間は遂に歩行ができなくなり,常にロボットに頼って生活する.22世紀を待たずとも,あり得る未来だと感じてしまう.

階段からホームに降り,電車に乗る.本を広げながら車内を眺めると,半数はスマホを手にしている.読書を強いるつもりはないが,どうも私は,皆がスマホに熱中する光景が苦手だ.画面を通じた世界と現実の世界,顔を向ける時間はどちらが長いのか.

ガラケーが普及し始めたころ,メール機能に依存してしまう人が問題となった.しかしそれ以上に,老若男女がスマホを手放せない現状は,どこか怖ろしい.本来有機体である人間の注意が,無機体である機械に向かい過ぎてしまうことを危惧する.

スマホ利用が高じれば,姿勢にも悪影響となる.中には首を90度曲げた人もおり,目も当てられない.筋肉博士と呼ばれる石井直方さんは,「歩きスマホは周囲の迷惑となる」というアナウンスに,「自分の首の骨も痛める」の追加を提案している.

電車は10分ほどで目的地に到着し,地上へと向かう.改めて,地下鉄ダイヤの正確さ,速さを想う.この便利さは,階段を歩く不便さを補って余りあるし,読書する機会も与えてくれる.路線2つの仙台で,浅田次郎「地下鉄に乗って」を読むのも面白い.