2016/05/26

アウトプットのすすめ









ここ1か月で,6つの美術館を訪れた.作者のエネルギーが集中した作品を鑑賞するのは,やはり見る側にも多くのエネルギーを必要とする.インプットが重なると,どうもアウトプットの圧が高まるようで,自分でも何か描きたくなってきた.

インプットとアウトプットの関係は,片側交互通行の道路だと私はとらえている.どちらか一方だけ車を流し続けると,すぐにもう一方が渋滞してしまう.交通整理を行う人の判断で,片側を流し,続いて反対側を流す必要がある.

情報の洪水と呼ばれる現在,とかくインプットがアウトプットより多くなりがちである.テレビや新聞だけでなく,スマホひとつで多くの情報にアクセスできる.一方で情報の速度は加速し,今日のニュースが一週間後も報道される可能性は小さい.

情報の海に流されてしまうと,人は泳ぐことができなくなる.インプットがあまりに多ければ,人は考えることをやめてしまう.流されないためには情報の取捨選択が求められ,その上で初めて情報の発信が可能になる.

反対に,アウトプットがインプットを上回るのはどうだろう.限られた水を様々に用いようとすれば,自然使い回さなければならなくなる.ネットニュースやハウツー本の一部に散見するような,内容の薄い発信になってしまう.

インプットとアウトプットの割合を近づけることが,私の目指すところである.インプットを取捨選択するとともに,アウトプットを意識して行う.このブログも,アウトプットのひとつとして書いている.

『知識を鍛えあげるには,常にアウトプットして,人とコミュニケーションすることが必要』とはヤマザキマリ著「国境のない生き方」にあった.教養を身につけるだけでは不十分で,日常的に考えを発信する必要がある.

コンピューターが人間の仕事を奪いつつある現代において,歩く辞書は以前ほど重用されない.人工知能による創作も時間の問題ではあるが,人間らしさとは何か,アウトプットにこそ求められるのではないかと私は考えている.

ブログを書くことで,文章力を少しずつ磨いているように感じる.絵に自信は全くない私も,描くことが何よりもの訓練と信じて,絵を描いてみたい.そうして,インプットに応じたアウトプットを心掛けていく.

2016/05/03

21年目のテスト









小中高大,4つの教育課程を過ごして,いよいよ最終学年を迎えた.「なんでそんなに勉強しているの?」と周囲からはよく聞かれる.学生=勉強であるなら,テストもまた,学生につきものかもしれない.私も20年の学生生活で,様々な”テスト”に接してきた.

小学校に入学して最初のテストは,10点満点の漢字ドリル.10点をとると,先生が花マルをくれた.大きなマルは,子どもごころにうれしかった記憶がある.いつしかテストは100点満点となって,みんなが結果に一喜一憂していた.

中学校では通常のテストに加え,よくコンクールが開催された.漢字や英単語を覚えるために,ノートを文字いっぱいに埋めた.当時手書きした単語は,今でもすんなり書くことができる.高校以降に習った単語の忘れ具合をみると,反復学習の効果は大きい.

高校に入ると,大学受験を見据えてテストの重要性が一層高まった.難易度も高くなって,赤点をとることもあった.テストの上位者が貼りだされる仕組みで,自分の名前かと思うと,名字が一緒の友達だったりした.

小中高のテストについて共通項を挙げるならば,ひとつはみんなが同じテストを受け,比較可能であること.軸はひとつで,点数の高い方が優れている.もうひとつは「答えのある問い」であること.問題集にも必ず解答集やヒントが付いている.

しかし大学に入ると,まずテストの軸が複数になった.専門分野ごとに受けるテストが異なり,隣の学生と単純に成績を比較することはできない.さらに先生側も,テストで良い点をとることをあまり求めない.受験勉強とは異なる”勉強”が求められた.

専門分野のテストを受ける一方で,大学3年次には研究室に配属された.教員から与えられたテーマについて,教科書やネットで関連する内容を探す.教科書の記述も,ネットの件数も驚くほど少ない.初めて,「答えのない問い」にぶつかったことに気付いた.

「答えのある問い」から「答えのない問い」へ.テストでいえば,点数欄がなくなってしまった.知識を問われるのではなく,思考力が要求される.卒論,修論を通じて,考え得る解答を提出する.解答に向かう道は曲がりくねり,むしろ間違えることが,筋道を示すこともあった.

いつからか私は研究者を志望し,博士課程に進んだ.修士課程までとの違いは,教員がすべてのテーマを与えてはくれないこと.学生は,ある程度独力で課題を設定する必要がある.「答えのない問い」から「問われることのない問い」へ.テストを受ける側から,作る側へ.

3種類の問いは積み重なっている.「答えのある問い」に答え,知識を身につける.その知識をもって,「答えのない問い」に挑む.多くの問題解決を通じ,何が問われていて,何が問われていないかを把握することができる.

問題解決力,課題設定力の向上を目指して,21年目のテストに臨む.「なんで勉強しているの?」という問いへの答えはあるか,それともないか.卒業するころには,自ら納得できる答えが出せるかもしれない.