2016/04/03

7つの海外

パスポートの作成は2010年.「すぐ海外行くのに,パスポートがない!」という夢をみたのがきっかけ.渡航予定なしの作成に,係の人には不思議がられた.

それから2年,初海外は研究航海への乗船だった.バミューダ諸島から大西洋を北上し,カナダのニューファンドランドへ.最初の入国審査で,私はほぼ話すことができず,別室に案内された.係官に「練習だと思って話してごらん」と促され,通過できたのは苦い思い出.

船上での2か月間は,10カ国以上の研究者やスタッフとの共同生活だった.学ぶことはたくさんありながら,人間の多様性,共通語としての英語の重要性を強く感じた.世界の広さと,自分の小ささ.世界地図のスケールを,認識し直した.

初海外の印象薄れぬまま,2013~15年には,研究試料採取のため,3度ドイツ・ブレーメンを訪れた.街の建築物を眺めるだけで,否応なしに感じる"西洋"と"東洋"の差.相容れない文化の差異は,同時に両者の対等性を意識させた.

ブレーメンの路面電車を利用すると,車内には数えきれないほどの言語が行き交っていた.以心伝心でないコミュニケーションが,この場ではどうしても必要になる.およそ単一言語の日本と,またしても違いを感じた.

昨年から今年にかけては,それぞれの理由で3度アメリカへ渡航した.ヨーロッパとも違うのは,圧倒的に国土が広いこと.沙漠など,人気のない土地も多く,車社会になるのも納得した.よくもわるくも,日本の狭さを再認識できた.

一方で街を歩けば,物乞いをする人など,格差が明らかにみられた.個人の自由,豊かさを求めた先に格差があるならば,日本の辿る道も似通ってしまう.人種のるつぼの中で,日本人として考えさせられることは多かった.

7度の海外経験はいずれも,実感の伴った知識を私に与えてくれた.世界を知ることで,日本を知る.他者への寛容さも,一貫して養われた.前だけみても進めるけれど,ときに立ち止まって周囲を眺めることで,視野が拡張される.

海外への窓としてのパスポート,日本人の保有率は2割ほどという.井の中の蛙も,窓があれば大海を知ることができる.大海の存在は,井戸の有難みも教えてくれる.井戸の外を知り,認識を改め続けたい.