2019/05/18

南大洋航海記〜その1〜

研究航海はいつ行われるか?世界中だと毎日ですが,南極や北極を研究する場合,その時期はほとんど限定されます.冬には風が強まり,海氷も発達するため,観測等が困難になるからです.つまり南極周辺の海,南大洋を研究するなら南半球の夏(12〜2月)に航海を行うのがベストです.そうした事情で日本の研究船白鳳丸とフランスの研究船マリオン・デュフレーヌがほぼ同時期に航海を行うこととなり,今回私はその両方に乗船する機会を得ました.

私のこれまでの乗船経験は2度とも国際的な掘削航海プログラム(IODP)でした.航海期間は2ヶ月と長く,乗船研究者は10カ国以上から集う形式です.これに対して白鳳丸は日本,マリオンはフランスが独自に有する船であり,乗組員や船内の言語は各国の言葉に従います.期間は約1ヶ月で2ヶ月を超えることはあまりないようです.私にとってIODP以外の航海経験は初めてであり,また2つの船を乗り継ぐ経験はおそらく最初で最後だろうと思います.それが航海記をまとめる大きなモチベーションです.

〜その1 白鳳丸航海前半〜
2018年も年の瀬に高知を離れ,オーストラリアのパースに向かいました.南北方向のフライトは時差も少なく比較的楽に感じます.入国審査官に航海目的と伝えると「捕鯨船じゃないか?」と確認され,日本の捕鯨活動を思わぬところで意識させられました.到着日は大晦日の朝,休みたいところですが早速停船中の白鳳丸へ向かいます.まずは船内の物品整理,やることは多くあります.今回は偶然にも日本の船「海鷹丸」も隣に停泊しており,お互いの船を訪問したり乗船研究者同士で壮行会を開いたりもできました.海外にいながら大勢の日本人で南大洋に向かうことに,どこか心強さを感じました

白鳳丸航海の前半に乗船するメンバーは修士学生が中心で,私には中堅の立場が求められます.私の主な役割は海水をろ過し,小さなプランクトンを採集することです.船には表層の海水を汲み上げるポンプがあり,船内の蛇口をひねると海水が出てくる仕組みです.船が移動しながらもサンプリングができ,特別な時間や費用をかけることなく貴重な試料の採取ができます.蛇口に水道メーターを取り付け,特殊な網を設置します.これから毎日,蛇口をひねり試料採取(観測)を続けることになります.

こうした作業を船内で行うには1つ問題があります.それは船が揺れることです.物が動かないようにロープで固定する必要があり,最大の問題は船酔いです.船が出港して間もなく,比較的揺れの強い日がありました.気持ちとしては観測を始めたいものの,船酔いでそれどころではありませんでした.何度か乗船経験を重ねても,やはり船酔いは避けられないと諦めます.学生にも船酔いがみられ,それぞれ酔い止めを飲んで休むことになります.揺れが収まると,いよいよ観測開始です.とはいうものの,海の現場観測について経験は多くありません.試行錯誤して,なんとか試料採取を進めていきます.

続いて船内生活について紹介します.まずは食事,IODP船に乗船したときはアメリカ料理であり,私の体にはとても合いませんでした.今回は日本の船であり,ご飯がいつでも食べられる,それだけで結構うれしいものでした.加えて2日に1度,湯船に浸かることができ,お風呂好きの私にとってポイントが高かったです.そして日本語を話して過ごすことができる.海外船では日常が外国語になるため,知らず知らずにエネルギーを使います.船は半閉鎖環境であり,些細なことでストレスがたまりがちです.母国の船に乗船することは,言葉の苦労を和らげる観点で大きなメリットだと感じました.

オーストラリアからインド洋を西に横断し,寄港地モーリシャスが近づいてきます.モーリシャスの排他的経済水域(EEZ)に入ると基本的に観測を行うことはできません.研究のためには観測を続けたいですが,仕方ない気持ちで観測を終えます.モーリシャスに寄港して上陸すると,その暑さが際立ちます.リゾート地として有名なモーリシャスですが,港はそうではなく,現地の人が多いです.市場など周囲を半袖短パンで歩いて回ります.モーリシャスでは白鳳丸航海後半の乗船者と合流しました.本航海の重要観測はこちらで,これから南極付近へ向かいます.乗船研究者一同での打合せが始まり,密度の濃い1ヶ月になりそうです.
その2へつづく〉

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