2015/12/26

杜の図書館

宮城県の比較的大きな図書館として,仙台市図書館,東北大図書館がある.仙台市図書館には180万冊,東北大図書館には400万冊所蔵されている.仙台市民は約105万人に対して,東北大生はおよそ1万8千人.

上記の数字は,やや意外であった.仙台市民としてよりも,大学生としてアクセスできる本の方が多いのである.仮に仙台市が市民全員に本を貸し出したら,ひとり当たり1.7冊.しかし大学が本を配ったら,ひとり当たり222冊もある.

もし図書館のサービスとして,無作為に222冊が紹介されるならば,学生にとって本との出会いは格段に増すだろう.一般書,専門書にはじまり,みたこともない言語で著された書籍かもしれない.

多種多様な400万冊もの本にアクセスできることを,しかし私が実感したのは,大学院生になってから.大学生のころはもっぱら,専門分野の本棚ばかりみていた.AAからZZまである図書館の分類では,ME(地球科学)の棚である.これでは,図書館の一角しか訪れていないことになり,とてももったいない.

大学1年のとき,文学部の先生が授業で,「どうせ大学生なんてすぐに社会で役立つことなんかやらない.どうせなら,全然役立たないことを勉強したらいい.」と話していた.一方で高校の先生は,「目をつぶって何か一冊手にとってみて,それを読んでみたらいい」と提案していた.

MEの棚だけを訪れることは,英語の学習でいえば,Mではじまる単語ばかりを覚えるようなもの.英語を理解したい,コミュニケーションをとりたいと思ったなら,まんべんなく単語長を参照しなければならない.Aではじまる単語,Bではじまる単語,とりあえずひとつずつ覚えるのも面白い.

先日偶然に,分類記号で「HM」を見つけた.私のイニシャルである.図書館分類ではHMは「仏教」.まさしく専門外だけれど,どこかに縁を感じてしまう.イニシャルは一例であって,より多くの本に親しむことができるなら,きっかけは何でも構わない.

大学生には,もっと図書館を訪れ,読書する機会をもってほしい.一般の人にも,アクセス可能な大学図書館はあるし,もちろん市図書館を訪ねるのも有意義である.幅広い分野の本に触れることで,読書の楽しみは増すはずである.

2015/12/12

知的生産の五冊


以下の書籍を紹介する.
(1) 知的生産の技術/梅棹忠夫
(2) 理系のためのクラウド知的生産術/堀正岳
(3) 理系のための研究生活ガイド/坪田一男
(4) 知的生活習慣/外山滋比古
(5) 学問の技法/橋本努

「知的生産」という言葉は(1)によって生み出された.梅棹氏は考えをすべて書き留め,膨大な量のカードを作成した.メモ魔ともいえるその情熱は,恐ろしくもある.大切なのは整理することではなく,検索すること.この考えは時代を問わず通用する.

私も以前チャレンジし,カードシステムを導入してみた.なかなか書く習慣が身に着かず,肝心の見なおすことも中途半端になってしまい,頓挫した.作業環境としてはPCに向かう以上,紙媒体と電子媒体をつなげることに困難を感じていた.

それからしばらくして,(2)に出会った.(1)のアップデート版ともいえる,現代に即した技術を教えてくれた.Google,Evernote,Dropboxの活用.著者は「すぐにこの本も時代に合わなくなるだろう」と述べているが,2015年現在でも十分に役立つと考えられる.

続けて(3)を読んでみた.現在だけでなく,将来を含めた長いスパンで研究を考えることに役立った.筆者はメディアへの露出が多く,アウトプットの大切さを学ぶことができた.(1)~(3)を読んできて,研究を第一に据えた生活を少しく実践していた.しかしながら,趣味や余暇など充実するにつれ,いわゆるワークライフバランスも大切なのではと考えるようになった.

そうして悩む中で,(4)の書籍を見つけた.思考の整理学で知られる外山氏の,長年の知的生活に基づく内容.”生活を第一”と臆面もなく言ってのけるのが気持ちよかった.生活を基盤にして初めて,知的生産が成立するという立場である.

こうした自己啓発の本は,読んだ直後が最も効用が大きい.しかし残念ながら,その衝動は時間とともに小さくなってしまう.ひとつ刺激を与えてみようと,(5)を手に取った.学問を大学生やビジネスマンに限らず,すべての人が行えるものとしているのが特徴的である.技術を幅広くまとめており,賛同できる手法も,そうでないものもあった.

「知的生産」を扱う様々な本を読んで感じたことは,その技術に確立された方法はないということ.時代に応じた方法があるし,もちろん各人にあった技術がある.技術を取捨選択し,生産性を高められるような道を,これからも探りたい.

2015/12/10

時間とお金のトレードオフ


ネットで商品を注文するとき,まず公式サイトにアクセスして値段を確認する.次に商品名で検索し,口コミなど眺めるのがいつもの流れ.ところが先日,公式サイトで注文を予定していたら,Yahooを経由して注文できることがわかった.商品には変わりなく,Tポイントが獲得できる.

これはお得!と考えて,Yahooを通じて注文する.すると注文完了後に,300円クーポンの存在を知らされる.最も安く注文するのであれば,事前にクーポンを獲得し,Yahooを通じて注文しなければならない.つまりお得にするためには,面倒な手順を踏む必要がある.主にお金の面でメリットを得るために,時間がかかる場合,果たして本当に”お得”なのだろうか.

Time is money.「時は金なり」ということわざを考えてみる.時間はお金と同様に貴重なものという教え.しかし優先度の解釈として,次の3通りがある.
Time < Money,時間をお金より軽くみる
Time = Money,両者を等価とみる
Time > Money,時間をお金より重くみる

私はTime > Moneyの解釈をとってみたい.お金を損しても,かかずらう時間を少なくする.先の例でいえば,公式サイトで注文する場合お金は損するが,時間は節約できる.この解釈は一方で,適切な対価を支払い,時間を有意義にする考えでもある.ネットは無料サービスが多いけれど,あえて有料サービスを利用して,満足できるコンテンツを得る.

時間とお金の両者を天秤にかけたとき,どちらに重みづけをするか.天秤の支点をずらし,どちらの腕を長くするか.Money is time.「金は時なり」ではないように,時間を大切にしてみたい.